セイコーエプソンは21日、吉田潤吉取締役執行役員(60)が4月1日付で社長に就任すると発表した。現在の小川恭範社長(62)は代表権のない取締役会長に就任する。
技術畑の出身者が多いエプソンで、文系出身の社長が誕生するのは38年ぶり。吉田氏は「技術力はあるが、顧客への届け方に課題がある。海外経験を活かして価値提供の幅を広げたい」と意気込みを語った。
海外経験豊富なマーケティングのプロ
吉田氏は、米国やシンガポールで10年以上勤務し、マーケティングや営業の現場を経験。米州地域ではスキャナー事業の立ち上げにも関わるなど、グローバルな視点を持つ。
2020年には、エプソンの売上の約7割を占める印刷関連事業を統括。従来のアナログ印刷機から、少量多品種に対応できるデジタル印刷機への移行を推進し、事業の変革を進めた。
また、2024年には米ファイアリーの買収を主導。買収額は約850億円(5億6870万ドル)で、エプソンの過去最大のM&Aとなった。「ファイアリーと協力することで、より高い品質と生産性を実現できる」と吉田氏は語る。
競争激化する業界での戦略
事務機業界では近年、企業再編が進んでいる。こうした状況のなか、吉田氏は**「まずはインクジェット複合機の価値をしっかり届ける」**と述べ、今後のパートナーシップについては「社内外で慎重に検討する」とした。
新体制でさらなる成長へ
2020年に社長に就任した小川氏は、新型コロナ対応や長期的な環境目標の策定を推進。2024年6月に碓井稔・現相談役が退任して以来、空席となっていた会長職に就くこととなる。
吉田 潤吉氏(よしだ・じゅんきち)のプロフィール
- 東京都出身
- 慶應義塾大学経済学部卒業
- 1988年(昭和63年)セイコーエプソン入社
- 2020年 執行役員就任
- 2024年 取締役執行役員就任
エプソンの成長を左右するデジタル印刷戦略
吉田氏が社長としてまず取り組むのは、デジタル印刷機のグローバル展開だ。従来のアナログ印刷は、大量生産には適しているが、小ロットや多品種の印刷には不向きだった。そこでエプソンは、「版」を作る必要がないデジタル印刷機への転換を推進してきた。
「この技術は、印刷業界の新しいスタンダードになり得る」と吉田氏は語る。デジタル印刷は、短納期・高品質・環境負荷の低減といった点で優れており、特にカスタマイズ需要が高まる海外市場での成長が期待されている。
エプソンはすでに欧米市場でのシェア拡大を進めており、2024年には印刷ソフトウェア開発企業「ファイアリー」を買収。この買収により、ハードとソフトの両面でのシナジー(相乗効果)が生まれ、エプソンのデジタル印刷事業はさらに強化される見込みだ。
再編が進む業界で、どう生き残るか
事務機業界では、大手企業同士の提携や再編が進んでいる。ライバル企業もデジタル印刷やクラウド連携サービスの強化を進めており、エプソンも変化を求められている。
この流れの中、吉田氏は「まずはインクジェット複合機の価値を確実に届けることに集中する」と強調。その上で、「将来的なパートナーシップについては社内外で検討していく」と含みを持たせた。
つまり、まずは既存事業の強化を図りながら、業界再編の動きを見極め、最適な提携や戦略を検討していく考えだ。
求められる「マーケティング視点」
エプソンの歴代社長は技術者出身が多く、プロダクト(製品)中心の経営が続いてきた。しかし、今回38年ぶりに文系出身の吉田氏がトップに立つことで、顧客目線での戦略がより重視される可能性が高い。
「エプソンには世界に誇れる技術がある。しかし、技術だけでは不十分。その価値をどう伝え、どう市場に届けるかが重要だ」と吉田氏は語る。
これは、グローバル市場での競争力を強化する上で欠かせない視点だ。すでに海外勤務の経験を活かし、販売戦略やブランディングの強化にも取り組んでいる。
吉田新社長の手腕に注目
吉田氏の就任により、エプソンは「技術主導」から「マーケット主導」へと経営の舵を切る可能性がある。
- デジタル印刷機の成長戦略
- 事務機業界の再編への対応
- マーケティング重視の経営への転換
これらの課題にどう対応していくのか、今後の動向に注目が集まる。
吉田体制のエプソンが、どのように未来を切り開いていくのか—今後の一手が、業界全体に影響を与えるかもしれない。