自身の経験から新しい仕組みを生み出す
教育者という立場に就いたのは、学園の創立者である母の後ろ姿を見てきたからです。当校は今年76年目となりますが、その間の約60年間は服飾一本だったんです。戦後の復興期、洋裁技術を教える教室からスタートしました。そこから、ファッション科に加えて、デザインビジネス科、長野プロデュース科と広がりました。私は20代の時に個人事務所を設立し、学校の教師の仕事と、デザイナーとしての個人事務所の仕事と、二足の草鞋だったんです。その経験から、学校内で技術+ビジネスを学ぶ必要があると考えました。なので、一貫してデザイン、制作したものを、ビジネスにつなげていくことを学ぶ学校にしていかなければと考えました。
「教育者」という立場の難しさ
デザイン事務所のビジネスにおいては、自身がクライアントに提案し、形にするスキルやスピードを求められます。だけど、学校の教師は、学生たちを主役にどう成長させられるかなので、全く違う仕事なんですね。生徒が考え付くまでずっと待つので、時間の流れも全然違います。植物と似ていて、主役である学生が育ってくるのを待つ。あるいは、創造する時間を見守って時に待つ、という感じだったので、対照的な仕事の両立は大変でしたね。
学生の可能性を引き出すための大きな決断
永い歴史の中で大きな決断の一つに、校名を変えたことがあります。それは、もう一度0からやり直すくらいに大きいことでした。今まで長く親しまれた学校名から、新しい学校名がすぐ結びつかず、同じ学校と理解していただけない。それでもこの決定をしたのは、長野という地域で可能性を持っている若者たちの能力をもっと引き出したかったからなんです。例えば、ファッション分野に限らずデザインを通じて様々なスキルを持った子たちが育ってくれば、もっと長野あるいは全国で活躍する若者が育っていく。この地域で可能性を持っている子たちをもっともっと引き出して、その子たちが長野にも多くの花を開かせてくれたらいいなと思ったんです。
地域に触れ、多くのものから学ばせる
産官学連携のプロジェクトで、長野の魅力に触れる機会をこれからも学生たちにもっともっと提供していければと思っています。地域の行政や企業の方々からいただくプロジェクトに参加することで、地域と関わる機会が生まれ、学生自身がデザインした作品が世の中に広がっていくという経験は、大きな自信につながります。
また、岡学園では、学生が制作した作品を、できるだけ学生同士で評価し合ったり、企業の方やアーティストなど、様々な角度で評価していただける機会を作っています。ひとりひとりの学生が持つ可能性は、限られた教師だけでは分からないこともたくさんあります。成績表だけでは書ききれない様々な個性や強みを見つけ出すには、いろんな角度の評価が必要だと考えます。そうすることで、学生自身も”自分らしさ”に気づき、自信を持つこともできる・・・そんなことを大事にしていますね。
なぜ「好き」を継続することができたのか
幼い頃、私がデザインした洋服を、母が作ってくれたことが嬉しくて、小学校の時からいつかファッションデザイナーになりたいと思っていました。しかし、自分のブランドを持つことができたのは、40代になってからでした。だから、自分が好きで将来やりたいと思っていたデザイナーという夢を、遠回りしつつも実現できたことは、幸せだなと思います。自分の好きなことで周りの方々に喜んでいただき、求めていただけるという私自身の経験から、継続し続けていけば必ず次へと繋がっていく、だから「好きを仕事にしよう」と、学生たちにも伝えています。
確かに、継続するってとても大変だと思います。やりたいと思ったことを一度断られて、そこで終わる可能性もあるけれど、自分の想いや信念が明確にあれば、一度や二度ダメでもめげないんですよね(笑)。トライしたことの結果として上手くいかなかったとしても、失敗ではないと思います。その経験から吸収することはいっぱいありますから。特に、デザインの世界は正解も不正解もないので、成功からも失敗からも成長のこやしになります。
自分の中にある「好き」を大切に想う
”安定した仕事に就くこと”と、”好きを仕事にする”ことは、どちらを選んでも良いと思います。まずは安定した仕事に就いて、そこでいろいろなスキルを吸収させていただく中で、自分の好きなことや得意なことを自覚することもあると思います。時代の変化が早く、保障されている安定はむずかしいからこそ、自分の人生は、自分を信じ好きだと思えることを、大切にしてほしいとも思います。
ここは、「好きを仕事に」したいと思っている学生が集まる専門学校です。自分の中にある「好き」を大切に想い素直になれる。そういう子たちの多才な可能性を、様々な角度から引き出すことが、私達のミッションだと思っています。自分が創造したものをビジュアル化する力と、それを周りに伝えるコミュニケーション力を身に着けることが大事だと考えています。
「好き!」と思う気持ちを大切にし、その想いに素直であること。そのような学生を育て、彼らの可能性を広げていきたい