二つの決意
高校まで野球一筋でしたが、高校卒業後は自動車製造会社の下請け工場に就職しました。工場のラインの一部として働いていて、このまま人生を終わりたくないと思っていた時、当時農家だった父から私に農業を継いでほしいと話がありました。父と話す中で、農家のやりがいを感じたことに加え、時間の融通が利きやすいことなどもあり、継ぐことを決意しました。
最初の一年は、父から技術を継承するため、二人で農業をしていましたが、収益が上がらず赤字でした。そのような状況から、収益を上げることと、もっと多くの人と関わりながら仕事がしたいという思いが生まれ、起業を決意しました。
こだわりをもちすぎない
会社を経営する上で、こだわりをもちすぎないことを大切にしています。農家の方は職人気質なところがあるため、品質にこだわりを持って仕事をされています。しかし、お客様の中には、綺麗なりんごではなく、多少傷があっても美味しいりんごを安く求めたいという方もいらっしゃいます。そういうニーズに応えることができるよう、柔軟な対応をすることが大切だと考えています。お客様の顔が直接見えないことで生まれるギャップがないように、常にニーズを把握し、どこを目指すかマーケティングすることが大事だと考えています。
軸を持って相手に伝える
耕作放棄地を減らすことを一番の課題としていて、最初は1haだったりんご畑も今では10haまで増やすことができました。また、私たちは多少傷があっても美味しいりんごを求めている人のために作っているので、スピードを求める部分があります。しかし、それがなかなか理解されず、クオリティを重視しすぎるあまり、なかなか仕事が進まないこともあります。そういったときは、どういうニーズに応えることを目指しているのかという会社の軸を伝えることを意識しています。
災害時の支援の変化
創業して2年目の時に、台風19号災害に遭いました。災害の状況をいち早くSNSで発信したことで、これまで繋がりのあった方100人くらいがボランティアとして来ていただき、すごく助かりました。長野の台風19号の災害をみたときに復興の在り方が変わったと感じました。SNSの活用によって現状を伝えることにより、必要な支援が個で回っていくようになったと感じています。
災害時にボランティアの方とまずやったことは、ゴミを人海戦術で一個一個片づけていくことでした。最低でも3ヶ月くらい、ずっとこの作業をやっていました。事務所や畑は、決壊した場所から一キロ離れていましたが、水が4m以上ついて、甚大な被害が出ました。台風19号災害は、国の激甚災害の指定となったため、国からの支援があり、水につかり使えなくなった農機具などは買い替えることができ、この災害を乗り越えることができました。
会社の飛び道具を増やす
フルプロ農園では、須坂市に事務所として一軒家があり、そこを拠点として農業体験をしてもらうファームステイをやっています。全国から毎年50人以上の学生が来てくれています。農業に興味を示して勉強しに来てくれるのがうれしいです。その場限りの一期一会の関係だともったいないと考えており、来てくれた学生には、しっかりと農業の仕事をしてもらうことを大切にしています。
例えば、「りんごにかける七味」のクラウドファンディングをした時は、東京の学生がブログの更新やデザインの作成をしてくれました。この活動が認められてメディアに掲載された時や目的が達成された時に、とてもやりがいを感じます。こういったものは本業ではない活動ではありますが、会社の一つの飛び道具として良いと思っています。
楽しく仕事をする
私は『楽しく仕事をしたい』と考えています。農業は地道な仕事が多く、農業だけをする会社だと離職率も高くなり、『楽しく仕事をしたい』という想いから離れてしまいます。従業員の好奇心を失わせないためにも、本業以外の活動も大事だと考えていますし、新規事業などを任せることで仕事へのやりがいを感じられる環境を作っています。
自分自身が好奇心旺盛なタイプなので、私から周りの方や従業員を巻き込み新たな取組みを行うこともありますが、会社の歯車の一部になって惰性で過ごすよりも、『楽しく仕事をしたい』に繋がっていくと考えています。また、こうした活動への取材やファームステイなどで、様々な人と関わることも仕事へのやりがいをもつことに繋がっていると考えています。
ハイブリッドな人を求めています
農業をやっている会社ですので、事務の仕事をする人でも現場にでてもらえるかということを重視しています。もちろん適材適所はありますが、りんごを何tも出荷する日など忙しい時期には、一緒に協力してくれる方を求めています。技術はなくてもいいですが、すべての仕事をやるという気持ちがある方がいいですね。私はこの仕事しかしませんという人は厳しいと思っています。
例えば、ウェブデザインを担当している方にも、実際に現場に出てきてもらっています。りんごの生育の流れや現場の人たちの思いを知った上でウェブページを作ってもらいたいと思っていて、撮影のためだけに現場に行くのではなく、実際にともに汗を流してくれるかということを大切にしています。
りんごの産地、長野を未来へ
現在高密植栽培と呼ばれるヨーロッパ式の最先端のりんごの栽培方法を行っています。この方法では機械が木の間を通りやすいようになっているため、将来より機械化できる農園を目指しています。今のまま順調に畑の面積を広げて、私たち若手がりんごの産地である長野を守っていきたいです。
会社の信念を大切にし、多くの人と一緒に楽しいを作りながら未来のためにりんごの産地、長野を守っていく農園