齊藤 忠政

扉ホールディングス 株式会社
齊藤 忠政
TADAMASASAITO

時代の流れを逆算し、事業を変化させていく。変化が早い世界に目を向けながら、地域文化を先頭に立って発信していく社長。
掲載日2023.4.26

扉ホールディングス 齊藤忠政社長「松本や日本の文化に付加価値をつけ、世界に発信していく」【松本市】

時代の流れを逆算し、事業を変化させていく。変化が早い世界に目を向けながら、地域文化を先頭に立って発信していく扉ホールディングスの齊藤忠政社長に、旅館・レストラン経営を通じた地域デザインや、観光の今後に対する熱い想いを伺ってきました。

インタビュアー
小古井 遥香

土地のストーリーと持続可能性を大切に、付加価値をつけた観光を。旅館・レストラン事業を通じ、住み続けられる地域をデザインしていく。

目次

経営に生かされるバリ島での体験

弊社は「扉温泉明神館」「ヒカリヤ ニシ・ヒガシ」をはじめとする、土地の魅力が感じられる宿泊施設やレストランを運営してきました。松本市内外の地域文化を発信し、信州と世界を繋ぐことを大切にしています。先代経営者の父から引き継いだ扉温泉は、八ヶ岳の国定公園内にあります。私は大学生の時に訪れたバリ島での経験から、明神館が周りの豊かな自然や土地の文化を活かし、宿泊されるお客様に居心地よく感じてもらえる施設となるように、旅館のあり方を変えてきました。バリ島のホテルでは、土地の風水や文化を大切にしており、ゲストにとって滞在することで土地文化を感じられる場所となっています。このことに感銘を受け、自分の旅館にも活かしたいと思ったのです。私はゲストの居心地の良さ、持続可能な文化の発信という2つの観点から、明神館やこの会社を変えてきました。

個人の体験を尊重したサービスとは

まず居心地の良さについてです。ゲストが居心地良くその土地の文化を感じてもらうには、これまで当たり前とされてきた旅館のサービスを変える必要があります。私は食事を利用者の希望に添ったものとしたほか、自分たちのサービスより利用客の都合を優先するようにし、部屋への断りないお茶出しを行わないようにしました。個人の体験やプライバシーをより大切にできる旅館にしたいと考えたのです。

先代との衝突を超え

個人の体験を大切にする方針への変更で、主に団体客の受け入れを行っていた先代の父と喧嘩をしました。従業員との衝突も招き、三分の一が辞めてしまいました。当時私は専務・常務の立場にいたのですが、人手不足から旅館で皿洗いもしました。皿洗いをするために、友人の結婚式の二次会に行けなかったこともあります。当時は宿泊客が団体から個人へと変わる潮流があり、先代との衝突は、変化を受け入れ時代に即した新しいものを作っていくために必要なものでした。先代に私の価値観を理解してもらうのはとても大変でしたが、先代とバリ島を訪れる機会があり、父もバリ島のリゾート観に感銘を受けたのがきっかけで、私のやりたいことを理解してもらえました。

伝統文化に付加価値をつけて発信するヒカリヤ

次に文化の発信についてです。土地の文化を発信したいという思いは、バリ島訪問の前から土台が作られていたように思います。旅館業を営む両親が多忙だったことで、祖父母からものを教わる機会の多い幼少期でした。特に家の行事や神仏、地域の行事の大切さを教わったことが、土地文化を尊重する自分の価値観の養成に繋がったと感じています。

先代から引き継いだ会社とは別に、2006年にシックスセンス株式会社を立ち上げました。訪れた人に土地の文化を感じてもらうという、自分の思いをさらに実現するために、1から自分で事業を始めようと思ったのです。松本の歴史的な商家だった建物を購入し、「レストランヒカリヤ」の経営を始めました。価格を安くして多くのお客様を迎えるのではなく、その土地の文化・食材の価値を正しく認め付加価値をつけ、高単価にする分、年月をかけてお客様の信頼を勝ち取らなければなりません。オープンから半年経った頃は、ファンが定着せず経営が苦しい時もありました。当時、ブライダルを行う他社からの独立を考えていた人と、協働して立ち上げたブライダル事業が下支えとなり、苦境を乗り越えることができました。懸命に続けていれば、見ていて協力してくれる人がいるのだとその時に気がつきました。

いち早い環境意識で作られるブランド

時代の流れをつかんだ迅速な変化は、観光を含めた日本の産業が苦手とすることです。サステナビリティへの意識はそのひとつです。サステナブルなホテル・旅館に泊まりたいという思いを海外の旅行客8割が持っている時、日本でサステナビリティを基準にホテル選びをしたい人は5割もいませんでした。(参考:https://news.booking.com/ja/sustainable-travel-report-2021/ Booking.comの「サステナブル・トラベル」に関する調査 2021年版より)

明神館は、2009年から国際的な環境認証「グリーンキー」を取得しています。日本の他の宿泊施設に先駆けて持続可能性を考えたのは、バリ島での経験や、明神館が大自然の中にあるために気候変動の影響を受けやすいことがきっかけとなっています。2000年代に季節外れの雨氷による被害を受けたことで、エコロジーな施設へと一層舵を切りました。周囲の豊かな水を活用した冷房設備の設置など、スタッフの意見も多く取り入れました。地元の無農薬・低農薬栽培を行う農家との繋がりを増やしつつ、訪れた人に対してエコロジーであることの良さを伝えられるようなブランド作りをしています。いち早くこのようなブランディングを行い、海外でも認識される「グリーンキー」を取得したのは、環境への意識がある外国人旅行客に対して発信するうえでも強みになっていると思います。

住み続けられる地域を実現する観光に

明神館やヒカリヤニシは、世界的なホテル・レストランコレクション「ルレ・エ・シャトー」に加盟しています。私は日本の一泊二食の旅館を知って欲しい、本物の日本を世界に伝えたいという想いのもと、この組織の日本・韓国支部長として活動しています。あまり知られていませんが、一泊二食という日本の旅館のスタイルは海外の宿泊施設に見られないものです。価値を認め、発信していくべき文化のひとつだと考えています。他にも、「里山」は”satoyama”として海外にも認識が広がっており、サステナブルな文化として発信できます。弊社は2019年から、里山の伝統や自然を体験できる宿泊施設「Satoyama villa 本陣」「Satoyama villa DEN」を松本市の古民家で運営してきました。これらの施設は農園の収穫体験や歴史あるお寺での座禅体験などを通じ、訪れた人に里山文化の魅力をより体感してもらえるような付加価値をつけて発信しています。

このように自分たちの地域文化を認め、訪れた人がその文化をより感じられるように新たな価値をつけて発信することが、これからの日本社会には大切になってきます。今後も扉グループは、土地の魅力をより知ってもらえる観光事業をしていきたいと考えています。そのような観光の利益が地域に還元され、関係人口の創出や、育児や高齢者支援の財源充実にも繋がることで、住み続けられる地域実現のために貢献していきたいです。

齊藤 忠政
齊藤 忠政
TADAMASASAITO
1974年松本市生まれ。2000年、「扉温泉明神館」入社。2016年、「明神館」4代目に就任。2006年、シックスセンス株式会社を設立。2020年、扉ホールディングス株式会社を設立。観光庁の有識者会議の委員、長野県「おいしい信州ふーど公使」、2016年にはJapan Times「アジア圏で最も期待される次世代リーダー100人」に選出される。2013年より、ルレ・エ・シャトー 日本・韓国支部支部長。マツモト建築芸術祭実行委員長。
扉ホールディングス 株式会社

〒390-0815 長野県松本市深志1-2-18

TEL:0263-88-3266

40代社長 4代目 SDGs企業 サービス業 中信 創業50年以上 地域密着型 売上10億円以上 外食 社員数100人以上

本記事のインタビュアー

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