木下 敬一

株式会社 オリエンタル
木下 敬一
KEICHIKINOSHITA

壁があっても立ち向かい、経験に変えていく。関わる人すべてを幸せにしたいと願い、笑顔を絶やさない社長。
掲載日2025.6.17

オリエンタル 木下敬一社長「お客様も、私たちも、みんなを幸せにしたい」【松本市】

壁があっても立ち向かい、経験に変えていく。関わる人すべてを幸せにしたいと願い、笑顔を絶やさないオリエンタルの木下敬一社長に、学生時代の話や、お客様へのおもてなしのこだわりについてお話を伺ってきました。

インタビュアー
楠田 陽子

失敗を恐れず挑戦し続けた先に見えた、飲食店・旅館経営
仲間と共に信州の魅力を届けながら、幸せを広げていく

目次

単身アメリカ留学に挑戦した経験

私は18歳のときにアメリカへ単身留学し、経営学やホテル・レストランビジネスマネジメントを学びました。ホスピタリティやビジネス分野はアメリカのほうが進んでいると感じていたことも理由のひとつではありますが、それ以上に、日本では希望の大学に進学できないという事情が大きな理由でした。私は第2次ベビーブーム世代で、大学進学の競争が非常に激しく、思うような進路が選べませんでした。そんな中、偶然アメリカ留学の話を聞き、「そっちの方が楽しそう」と思ったんです。

当時の私は英語が得意ではなく、先生からも「無理だ」と言われました。それでも昔から怖いもの知らずだった私は「どうにかなる」と思い、留学を決意。実際、はじめは本当に大変でした。英語がわからず、空港で食べ物を買うことすらできませんでした。それでも、辞書を片手に街を歩き回ったり、積極的に話しかけたりしながら、少しずつ前に進んでいきました。勢いまかせに飛び出した留学だったかもしれませんが、その分、他の学生よりも努力したという自信があります。どんな壁にも立ち向かい、「きっと乗り越えられる」と信じて挑戦し続けました。簡単には助けてもらえない環境だったからこそ、多くを学び、かけがえのない経験になったと思っています。

ホテルインターンを経て、帰国し父の会社へ

アメリカ留学の1年目は、田舎の大学に通っていました。私は人とのコミュニケーションを大切にしていて、たくさんの努力のおかげで、町の人たちとも親しくなることができました。きっとあの町で私のことを知らない人はいなかったと思います。しかしアメリカでは、別の大学へ編入することが簡単にできる仕組みがあり、仲良くなった友人たちも次々に他の大学へ移っていきました。そんな流れの中で、私も環境を変えようとミシガン州の大学へ編入することにしました。

その後、マリオット系列のビジネスホテルで1年間インターンを経験しました。料理に興味があったため、配属は調理部門。同期に日本食をふるまうこともあり、喜ばれたことが今でも印象に残っています。インターン終了後には、そのままホテルに就職しないかと声をかけていただきました。しかし当時から心のどこかで「いずれ父の会社を継ぐことになるのだろう」という思いがありました。アメリカに残りたい気持ちもありましたが、父に呼び戻され、日本へ帰国し、父の会社に入社することを決めました。

父の会社で働くということ

就職後はさまざまな業務を経験しました。ある時には、父から飲食店の店長を任され、現場の多くのスタッフをまとめる立場にもなりました。しかし、そのお店で働く従業員の多くは父のもとで長く働いてきた人たちで、私の言うことを素直に聞いてくれない場面も少なくありませんでした。そんなときは、「これは社長の指示なんです」と伝えて、なんとか業務を進めていたりもしましたね。父は典型的なワンマン社長で、物事をすべて自分のひと声で決めてしまうタイプでした。私が考え抜いて準備したことが、父の一言であっさり覆されてしまったこともあります。そのときは本当に悔しい思いをしたのを覚えています。

日本文化と現代の快適さを両立させた旅館の誕生

旅館「月の静香」は、今から19年前にオープンしました。もともとは銀行の競売物件だった建物を購入したのですが、当時は宿泊業全体が低迷している時期で、私はこの物件を温泉付きマンションとして立て直すのが良いのではと考えていました。しかし、父が「旅館をやるのが夢だった」と言ったことで方向は一変。その言葉を受け、私は新たに宿泊業について学び始め、寝る間も惜しんで働く日々が始まりました。

それまでの主な事業は飲食店だったため、宿泊業という“朝から晩までお客様が常にいる”業態には苦労も多く、勝手も全く違いました。試行錯誤の末、「月の静香」は旅館とホテルの良さを組み合わせた和洋折衷のスタイルに。下足のまま玄関から部屋まで行けるという、従来の旅館とは少し違った形態となっています。その後、父は「泊食分離」へ移行したいと考えるようになり、部屋食もやめるようにと指示しました。しかし私はそれに強く反対しました。現在も「4人まで」という制限付きではありますが、部屋食の提供を続けています。もちろん食事会場も設けており、部屋ではなく会場での食事を希望されるお客様や、大人数でのご利用にも対応できる体制を整えています。私は「旅館として始めたからには、日本の文化を残していきたい」という想いを強く持っています。それに、料理を作る従業員や、接客をするスタッフにもそれぞれの誇りと想いがあります。そういった声ややりがいを無視してしまえば、彼らが辞めてしまうかもしれない——。そう考えるからこそ、文化を大切にしながらも時代に合わせたスタイルを取り入れる、そんな「月の静香」の姿があるのです。

父から会社を継ぎ、コロナ禍を経て考える新しい経営のかたち

私は7年ほど前に父からこの会社を引き継ぎました。ようやく自分のやりたいことに取り組める、そう思っていた矢先に、コロナ禍が襲いました。感染拡大の影響で借金は増え、人手も不足し、新しいチャレンジどころではありませんでした。特に痛手だったのが、宴会文化の衰退です。当社でも、大学生に多く利用されていた飲食店をやむなく閉店することになりました。さらに、私自身も2年前にがんを患い、現在も抗がん剤治療を続けています。体調と向き合いながら、会社をどう維持し、どう変えていくかを考える毎日です。こうした経験を通じて、私は今「人を使って店を展開していく」という従来のスタイルが、すでに時代遅れになっているのではないかと感じるようになりました。そこで今は、物理的な店舗に頼らず、別の方法で売り上げを立てていけないか模索しています。ピンチの中でもあきらめず、時代の流れに合わせて事業をどう変えていくべきか——それを今、真剣に考えているところです。

従業員とのコミュニケーションを大切に

私たちの会社は「いろりグループ」として、さまざまな業務を展開しています。こうした事業の広がりは、従業員と共に一つひとつ学びながら積み重ねてきた結果です。お客様から学ぶことも非常に多く、現場から得た知見が私たちの成長を支えてきました。その中で、私は「社長がすべてを取り仕切る」のではなく、「店長の裁量を尊重する」スタイルを大切にしています。もちろん私から店長へ「こうしてほしい」と要望を伝えることはありますが、あくまでもトップダウンではなく、現場から意見を引き出すことを重視しています。私はよく「店長こそがその店のボスだ」と従業員に伝えています。お客様から見れば、社長もスタッフも皆同じ立場。だからこそ、現場で働く店長やスタッフが自信と責任を持って行動できる環境づくりが大切だと考えています。

私自身も今なお現場に立ち続け、従業員とのコミュニケーションを大切にしています。そのおかげで、スタッフからも多くの意見やアイデアが自然と集まるようになり、職場全体が活気ある、風通しの良い雰囲気になってきたと感じています。

期待を超えるおもてなしでお客様と共に幸せをつくる仕事

私たちの使命は、お客様にとって居心地の良い場所を提供し、幸せを感じていただくことです。特に旅館などでは、お客様のハレの日にご利用いただく機会も多く、どれだけ深くコミュニケーションを取り、真摯に向き合えるかがとても重要になります。私は、一流のおもてなしとそうでないおもてなしの差は、実はごくわずかだと考えています。そして、その小さな差こそが「お客様ひとりひとりにどれだけ向き合えるか」にかかっているのです。ただし、私たちがお客様のために無理をし過ぎてしまっては本末転倒です。大切なのは、お客様を幸せにしながら、私たち自身も幸せであること。その両方が揃って、初めて本当のおもてなしが成立すると信じています。ご来館いただいたお客様には、事前の期待値を超えるサービスを提供し、「来てよかった」と感動していただきたい。そのためには、期待を裏切らず、そして期待を超えていく姿勢が欠かせません。

お客様の幸せと自分の喜びを重ねられる仲間と働きたい

現在、私たちの会社では第一線で活躍している従業員の多くが50代です。長年にわたり会社を支えてくださっている皆さんには、本当に感謝しています。その一方で、これからの会社の未来をともにつくっていくためにも、若い世代の方々にもぜひ加わってほしいと考えています。特に、「お客様を幸せにしたい。そのためにこの仕事を選びたい」と思える方と出会いたいです。私のモットーは「みんなが幸せになること」。だからこそ、人に喜んでもらうことにやりがいを感じ、自分自身もその喜びを分かち合える。そんな気持ちで働ける人と、一緒に未来をつくっていきたいと思っています。

ファンに届けたい信州の味と風景

先ほども少しお話ししましたが、今の時代において「店舗を増やして売り上げを上げる」という発想は、もう時代遅れではないかと感じています。だからこそ、これからは店舗を増やさずに売り上げを上げる方法を模索していきたいと考えています。たとえば、私たちの会社で作っているそばや、信州の食材を使った商品を通信販売するということ。これは、「月の静香」や飲食店をご利用いただいたお客様が、ファンになってくださったからこそできる商売です。旅館に足を運んでくださったお客様に、帰宅後も信州の風景や味を思い出してもらえるような商品を届けたい。そして、距離的に頻繁に来られない方にも、通信販売を通じて「来た気分」を味わっていただけたら嬉しいです。それに、美味しかったものや楽しかった体験って、誰かに話したくなるものですよね。口コミで私たちのことを知ってくださった方にも、もっと気軽に触れてもらい、好きになってもらえるような仕組みをつくりたい。そんな思いで、新たな取り組みに挑戦していこうとしています。

みんなの幸せを願い続ける私の原点

「みんなを幸せにしたい」——これは私の中にずっとある思いです。お客様はもちろん、従業員、そして自分自身も含めて、関わるすべての人が幸せになれることを目指しています。そのために私が特に大切にしているのが「笑顔」です。笑顔でいるだけで、相手との距離がぐっと近づき、何倍も接しやすくなると感じています。だからこそ、どんな時でも笑顔を絶やさないことを意識しています。小さな笑顔の積み重ねが、やがて大きな幸せにつながる——そんな信念を胸に、これからも人と人とのつながりを大切にしていきたいと思っています。

若者へのメッセージ:失敗を恐れず挑戦しよう

若いうちは、やりたいことがあれば何でも挑戦してみるといいと思います。失敗を恐れたり、人の目を気にしたりする必要はありません。むしろ、失敗しても許されるのは若者の特権です。だからこそ、周囲から「無理だ」「やめたほうがいい」と言われても、自分がやりたいと感じたことにはぜひ挑んでみてほしいです。たとえ壁にぶつかったとしても、それは確実に経験となり、将来の土台になっていきます。思いは人を動かします。「無理だ」と思えばできないことも、「できる」と思えばできるものです。失敗を恐れず、やりたいことに真っすぐ向き合い、どんどん挑戦して欲しいと思います。

木下 敬一
木下 敬一
KEICHIKINOSHITA
1974年長野県生まれ。North Wood University Hotel Restaurant Mgt卒業。1974年、株式会社オリエンタル創業。2019年、2代目社長に就任。
株式会社 オリエンタル

住所:〒399-0007

   長野県松本市石芝4-7-11 ガーデンハイツオリエンタル1-A

TEL:0263-27-0250

FAX:0263-25-3510

本記事のインタビュアー

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