学生時代に打ち込んだ野球の経験が経営を支える

小学3年生で野球を始めてから大学卒業まで、学生時代のすべてを野球に捧げました。高校時代には甲子園に出場し、大学は上下関係が厳しいことで知られていた亜細亜大学へ進学。その環境の中で心身ともに大きく鍛えられたと感じています。野球を通じて築いた人脈は今も続いており、全国から選手が集まる大学に進学したこともあって、公私を問わず全国に関わりを持つことができています。ひとつのことに全力を注いだ学生時代でした。
ポジションは小学生のころからキャッチャー一筋。グラウンド全体を見渡しチームに指示を出す役割を担うこのポジションで培った経験は、現在の経営にも生きています。選手の顔色や表情を見てその日の調子を判断していた経験から、今ではドライバーのコンディションを見抜く力につながっているのです。キャッチャーとして養った広い視野こそが、会社運営の大きな支えになっています。
修行で得た経験を活かし、品質重視で会社を継承

大学卒業後、私はキユーソー流通システムで数年間修業を積みました。その際、営業所の所長まで任せていただいたことは、とても大きな経験です。そうした経験のおかげか、サン・フーズに戻った際も「バカ息子が帰ってきた」とは思われず、従業員の皆さんにすんなりと受け入れていただけました。子どものころから家業を手伝い、顔なじみだったことも一因かもしれません。こちらに戻ってからは、現場を取り仕切る役割も任されました。ちょうどその頃は、運送業にも品質が求められるようになってきた時期でした。そのため私は、父の「満載にしてとにかく運べ」という方針から、品質重視へと現場のやり方を変えていきました。父からの反発はありましたが、社員の多くは理解して受け入れてくれました。
そして2007年、父ががんで亡くなり、突然会社を引き継ぐことになりました。本来はもっと先の予定でしたが、これまでの現場経験のおかげで大きな違和感なく継承できたと思います。もちろん反発もありましたが、ベテラン社員の方々が支えてくれたことが非常に大きな力となりました。
「人の品質」を高め、信頼される会社へ成長

私が社長を引き継いだ頃は、ちょうど時代の流れが大きく変わるタイミングでした。携帯電話の普及や交通網の整備により、お届け時間の指定などお客様重視の業務が求められるようになった時期だったのです。しかし当時のサン・フーズは従業員の質が悪く、毎日のようにクレームが寄せられていました。私自身、何度もお客様へ謝罪に伺い、このままではお客様も従業員も誰も得をしないと痛感しました。この状況を変えるため、私は「人の品質」を高めることを第一の目標に掲げ、従業員の教育と管理に力を注ぐことにしたのです。挨拶や身だしなみなど基本的なことからルールを徹底し、「自分たちがよくなれば楽になる」「自分たちのために地位を上げよう」と声をかけ続けました。その結果、改善に5年を要しましたが、サン・フーズは「預けない方がいい会社」から「安心して任せられる会社」へと評価が変わりました。今では私がひとこと言えば全員が徹底して動き、良い環境が社内の空気として共有されています。だからこそ、現在の従業員は誰もが自慢できる存在だと胸を張って言えます。
働きやすさを追求し、人と家族を大切にする職場づくり

「人の品質」向上に取り組み、成果を上げたら、次に取り組んだのは従業員の働きやすさを整えることでした。たとえば制服は1種類にせず3色を用意し、動きやすさと見た目にこだわりました。毎日まったく同じ服を着るのではなく、ちょっとした違いを楽しめることで気分転換にもつながります。また、焦りは事故やクレームの原因になるため、業務に余裕を持たせるよう工夫しました。極端に言えば、積載量を以前の半分ほどにすることもあります。余裕ある業務が品質と働きやすさの両立につながるのです。さらに、業界では珍しく週休2日の実現を目標に掲げ、3年後には年間休日120日以上を計画しています。食品物流は365日稼働するため、休日を作るのが難しい面もあります。しかし、私は、従業員には家族を大切にしてほしいという思いがあるのです。子どもの行事や旅行に参加できるよう、休みは固定制にする努力も続けています。そのほか、細かいことで言えば、かつては茶髪を禁止したりもしていましたが、今は若者の意見を取り入れ、時代に合わせてそういった規制も緩和。もちろん、仕事の根幹となる部分は守りつつも、人の品質と働きやすさを両立させることを大切にしています。
ゆとりある働き方で事故を減らし、品質を高める

事故を減らすためには、精神的な余裕が欠かせません。ゆとりがあれば事故は減り、人や物の品質も向上します。以前は数分の遅れでも叱られましたが、品質を高めることで15分から30分の遅れでもお客様に許容していただけるようになりました。さらに、こちらの業務の確実性と余裕を理解していただくことで、出荷を早めてもらったり無駄な作業を省いたりと協力を得られるようにもなりました。重要なのは、私たちの業務をきちんと行うこと、そして、そのことを大前提として私たちの業務をお客様に理解していただくことです。実際に現場を見ていただき、納得していただくこともありました。こうしてゆとりを持たせた働き方が品質を高め、その結果お客様の協力も得られ、事故が減りさらなる品質向上につながりました。
事故防止の取り組みとしては、トラックの車速管理も行っています。会社によってはドライバーを映すドライブレコーダーを設置することもありますが、私は個々の自覚に任せています。そこまでガチガチに締めてしまうくらいならトラックを降りるべきだと考えているからです。なにより私は、トラックが好きなのです。
食の物流を担い、信頼で成長を続けるサン・フーズ


サン・フーズ株式会社は、もともと父が始めた山賊焼の販売からスタートしました。しかし衛生面でのクレームによりその事業を終了し、その後はほっかほっか亭(現ほっともっと)のセンターを担うことで運送業へ本格的に移行しました。現在の主な仕事は業務用食材の運送やピッキング、倉庫の管理業務です。取引の約8割は県外のお客様で、長野県の食材を全国に届けるだけでなく、県外から長野県用の食材を仕入れ、仕分けして各店舗に配送しています。特に長野県と山梨県のコンビニの物流を担当しているのは大きな誇りです。近年はお客様からの信頼により新しい仕事を任される機会が増え、大手外食チェーンからの依頼もいただくようになりました。こうした新規の仕事は多くの場合、お客様からの紹介で広がっており、毎年新たな依頼につながっています。その結果、私が社長に就任してから売上は2倍以上に成長しました。
自動配車システムで効率化と未来の物流を目指す

私たちの会社では、作業効率化のために自動配車システムを少しずつ構築してきました。人が配車を担当するとどうしても趣味や嗜好が反映されてしまいますし、配車係の残業も避けられません。私はそうした課題を解消したいと考えています。取引先は何十社にも及ぶため、各社のデータを一つひとつ確認するのは膨大な作業です。幸いシステムに強い人材が社内にいたため協力を得てデータを集約し、仕組みを整えることができました。その結果、まだ完全自動とは言えませんが、配車作業は約1時間半の短縮に成功しました。しかし、私はこの段階で満足するつもりはありません。将来的にはAIを導入し、事務員はもちろん、極端に言えば子どもでもボタンひとつで配車を組めるような仕組みを実現したいと考えています
感謝、品質、自主創造――自ら考え行動する会社へ

「人にやらされる仕事ではなく、自分たちで考えて行動すること」「そうすることで会社も良くしていこう」――そんな思いから、私は自主創造という言葉を掲げました。これは社長になって2、3年後、人の品質向上に力を入れていた時期のことです。会社の指標や方針となるものが必要だと考え、「感謝、品質、自主創造」の3つをスローガンとしました。従業員が自ら考え行動することで視野が広がり、人生そのものを豊かにしてほしいと願っています。
農業と配車システムで新たな挑戦を描く

今後は、お客様とコラボし、農業に挑戦したいと考えています。加えて、現在のセンターは手狭なため、より広く自動化されたセンターを建設し、お客様のニーズに応えられる体制を整えたいと思っています。また、当社で独自に開発した配車システムを外部にも提供し、他社の効率化にも役立てたいと考えています。農業とシステム、この二つが今の私の大きな挑戦です。
若者へのメッセージ:挑戦を重ね、可能性を広げて

興味を持ったことには積極的に挑戦してほしいと考えています。時代が移り変わり国際社会が広がる今、海外に目を向けて経験を積むのも良いでしょう。挑戦は自分のキャパシティやスキルを高めることにつながります。だからこそ恐れずに挑戦を重ね、自分自身の可能性を広げていってほしいと思います。
「感謝、品質、自主創造」の3つをスローガンとして掲げ
従業員が自ら考え行動する会社へ