木曽漆器を使ってもらう旅行プラン
弊社は2018年創業の、長野県松本市にあるデザイン会社です。チラシなどの媒体を製作するだけでなく、地域産業のブランドづくりをお客様と一緒に行っています。現在は、塩尻市木曽平沢の漆器産業ブランディングに取り組んでいます。全国の工芸品を、外国人観光客向けに旅行プランに組み込んで発信するプロジェクト LOCAL CRAFT JAPAN の一環です。外国人観光客に実際に使ってもらうことで、木曽平沢が産地である木曽漆器を知ってもらい、「ほしい」と思ってもらう旅行プランを設計しています。
実際の体験を地域に還元していく
産業のブランディングをするためには、買ってもらいたい相手の反応や文化を事前に知ることが大切です。2022年9月にはパリ、11月には台湾へ実際に行き、木曽漆器を売ってきました。台湾の雑貨文化や外食文化に相性がよさそうだと分かったほか、これから飲食店を立ち上げようとする人との繋がりもできました。台湾茶を目の前で淹れてくれるお店でお茶を飲んだ時、その地域の文化に触れて楽しむことが商品価値を上げるために大事であると改めて実感しました。私たちが台湾茶を体験したように、木曽平沢を訪れた人には漆器に関連する体験をしてもらいたいです。具体的には、観光客向けに実際の工房で漆器作りを見学・体験する観光コンテンツを運営しています。
「届けたい」と「ほしい」とを繋ぐのがデザイン
会社を創立した翌年の2019年から、上高地など観光関連のプロモーションの案件をいただくようになりました。コロナ渦となり案件が減っていた時に、上高地のホテルと協働して新しい宿泊パッケージやコロナ渦でも楽しめるツアーを考える機会をいただいたんです。環境省への補助金申請から始め、このパッケージを届けたい人にどうやったら満足してもらえるかということを考えました。ポスターやウェブサイトのデザインを整える、ということではなく、旅行商品の開発から行ったのです。この時、デザインは最後の広報媒体を作るだけではないと気がつきました。人の届けたいものがターゲットの「ほしい」になるために、商品の内容開発から携わって作った人と届けたい相手とを繋いでいくことこそ、自分にとってのデザインだと考えるようになりました。この気づきは木曽漆器産業のブランディングにも活かされています。
よそものから内輪へ
私たちは、地域に密着しているからこそわかる地域の魅力を、訪れた人の体験を通して発信していきたいと考えています。一方で地域住民の方は、現状でよいと思っていることが多いと感じます。現状のまま衰退させるにはもったいない産業があると理解してもらい、私たちの活動は楽しいものだと思ってもらうのが大変です。デザイン会社が地域の活性化を考えるとなると、初めは「よそもの」として見なされざるを得ません。自分を知ってもらって内輪に入れるように、何回もその地域に行って人と知り合うようにしています。観光客にとっても、地域の人と知り合うなど内輪に入れるような体験は大切ですね。
働くとは何か、デザインとは何か
学生のみなさんには、自分の「好きなこと」「得意なこと」「人に貢献できること」が重なる仕事を見つけて欲しいと思います。好きなことが仕事として必ず向いているわけではありません。私はバスケが好きですが、選手になろうと思うほど得意ではありませんでした。一方で、人と関わり合いながら企画を作っていくことが得意です。得意で好きなことができて、さらに人に貢献できる仕事であれば、自分に合った仕事になると思います。
さらにデザインは、自分の伝えたいことを発信するアートとは違い、人の伝えたいことを受け手の「ほしい」になるよう形にする仕事です。伝えたい相手にどうやったら魅力が伝わるかを考えられると良いです。例えばお茶の場合、作った人のことも考えなくてはいけませんが、飲む人がどう思うか、どうやったらそのお茶を好きになってもらえるかを考えなければなりません。つまり、弊社の経営理念「作り手の届けたいを受け手のほしいにデザインで繋ぐ」ということが、デザイナーにとって大切なことになります。
地域の知られざる魅力を届けるため、自分の体験を地域に還元し、唯一無二の観光コンテンツを作っていく。